「まさか本気だったとは…」
「何か言ったか?」
「いや何でも」
そう濁しながら、フォルデはカイルから目線を逸らした。
スケッチブックと木炭を手にする彼の姿に、思わず顔が綻んでしまう。
それは普段見られないギャップについ笑ってしまうのと。
嬉しい気持ちが入り交じったものだった。
「で、これをどうしろと」
「どうもこうも、その紙にその木炭で何か簡単そうなものを、好きに描けばいいんだよ」
「……教えはそれだけか?」
「ん〜取り敢えず、お前がどんな絵を描くのか、見てからあれこれ口出すからさ」
「…そうか…」
「描きたいって気持ちが、大事なんだからさ。気楽にな」
「気持ちか……」
呟いたカイルは、じっとこちらに目を向けてきた。
「…?どうした?」
「いや。…それじゃあ、この窓から見える景色を描くことにするか」
「ああ、妥当だな」
* * *
「……お前、結構センスあるかもな」
「そうか?」
「さすが芸術品を愛してるだけあるってトコかな」
「…しかし、お前の絵を知っている俺は、どうにもこれがよいのかがイマイチ分からない」
「だからいいんだって好きに描けば。それに、俺が褒めてるんだから素直に受けなさい」
「…そうだな。ところでお前は何を描いていたんだ?」
「え、ああ…」
「?」
「……お前……」
「え?」
「……の自慢の木彫りコレクションもろもろ」
言いながらにっこりとスケッチブックを掲げてみせる。
「…………何というか…」
「無駄にリアルだろ?」
「…それ、描き終わったら貰っていいか」
「え!?オイオイ…本物が目の前にあるのに、こんなのが欲しいのか?」
「…ああ。お前の描いた、俺の大事なものだから」
「っ…。別に、いいけど…」
不意打ちだった。
そんな…嬉しそうに、言ってくるなんて。
(こいつ最近……ますます表現がストレートっつうか…)
「少々視線を感じたから何かと思っていたが…お前こそ、あれを描くなんて酔狂なことだな」
「……それも、面白いかなって…ね」
「そういうものか」
「…………」
—本当は。
お前を描こうと思った。
思ったけれど…。
(やっぱ、無理だった)
手が震えて。視界がブレて。急速に…巻き戻る。
(…そんな事ないと分かっているのに)
どうして未だに、この身体は過去に捕われたまま。
(きっと想いが足りないんだ…)
「…フォルデ?」
「!」
「どうかしたのか」
「いや……」
(……カイルは何度も、俺に道を示してくれた)
あともう少しな、気がするんだ。
「どうせなら…こんなのじゃなくて…」
「…?」
「いつか、俺の大事なものが描けたら、貰ってくれるか」
「……フォルデ…?」
「……いつか、きっと、描くから」
自分がどんな顔をして、それを言ったのかは分からない。
カイルは一瞬顔を歪ませてから、すぐ微笑んでキッパリと言った。
「ああ、もちろんだ」
「………アリガト」
たとえくだらない理由でも、こいつは無碍にしたりしない。
だから、ちゃんと話して、それから。
お前を描きたいと、そう思う。
fin.
支援Aで「絵の描き方を教える」とあったので、それを受けてのED後日談です。
ラスト部分絵で表現したいと思って漫画候補でしたが、色々(てか木彫りが)難しいので断念。
いやあ…マイ設定全開ですね。故にちと躊躇ったですよ。…え、いつも?w
私的にフォルデの「人物の絵は母上を最後に描いていない」発言は、大きく影響しています。
(フォルエイ支援でも躊躇っていますし。こっちも書きたい…)
彼自身避けているということもあるのですが…描かないのでなく、描けない。
そう考えてこのように。理由は文中にもあるようにとても単純なことですが…。
てな訳でそこらにこだわりのある私は、小説聖魔でフォルデの「人物もフツーに描く」みたいな発言だけはかなり許せないのでした。(他の出番はかなり良かったですし好きですけどね!)
…余談でした(笑)
(2005.9.2)